本が教えてくれたもの

『ねこに未来はない』(長田弘著)という本の中に、忘れられない一節がある。初めて飼った猫を亡くして打ちひしがれる若い夫婦に、心の底から猫を愛するおばさんがこんな意味のことを言うのだ。
〈いいんだよ、いいんだよ。いなくなったら、また次の猫を飼やあいいんだよ。そうして、またそれを可愛がるんだよ。それが、前の猫をなぐさめる一ばんの道なんだからね〉
 小さいころ弟みたいに可愛がっていた猫が死んでしまったあと、〈弟〉に悪いのと、また失うのが怖いのとで次の猫が飼えずにいた小学生の私は、〈いいんだよ、いいんだよ……〉
 そのくだりを読んだとたん、たまらなくなっておんおん泣いた。満員のバスの中だったけれど、どうしても我慢できなかった。
 前回、いつか自分の書いたものが誰かの特別な記憶となれば、と書いたけれど、思えばあれこそが、私自身にとっての、「本の言葉に救われた」原体験だったのかもしれない。


楽園のしっぽ|村山由佳 (文春文庫)

ねこに未来はない|長田弘 (角川文庫)