本が教えてくれたもの

『ねこに未来はない』(長田弘著)という本の中に、忘れられない一節がある。初めて飼った猫を亡くして打ちひしがれる若い夫婦に、心の底から猫を愛するおばさんがこんな意味のことを言うのだ。
〈いいんだよ、いいんだよ。いなくなったら、また次の猫を飼やあいいんだよ。そうして、またそれを可愛がるんだよ。それが、前の猫をなぐさめる一ばんの道なんだからね〉
 小さいころ弟みたいに可愛がっていた猫が死んでしまったあと、〈弟〉に悪いのと、また失うのが怖いのとで次の猫が飼えずにいた小学生の私は、〈いいんだよ、いいんだよ……〉
 そのくだりを読んだとたん、たまらなくなっておんおん泣いた。満員のバスの中だったけれど、どうしても我慢できなかった。
 前回、いつか自分の書いたものが誰かの特別な記憶となれば、と書いたけれど、思えばあれこそが、私自身にとっての、「本の言葉に救われた」原体験だったのかもしれない。


楽園のしっぽ|村山由佳 (文春文庫)

ねこに未来はない|長田弘 (角川文庫)

「それでなくても忙しいんだから、趣味や遊びにつかう時間なんかない」と考える人は多いけれど、人生を愉しむ時間というのは、忙しい時ほどかえって必要なんじゃないだろうか。〈すべきこと〉だけでなく〈したいこと〉があればあるだけ、日々を生きる気持ちには張りが生まれる。何であれ、「○○があるからもうひと頑張りしよう」と思えるものを持つのは、大切だし幸せなことだと思う。

『ホース・ウィスパラー』という世界的ベストセラー小説をご存じだろうか。
『モンタナの風に抱かれて』というタイトルでロバート・レッドフォード主演の映画にもなった物語だが、そのモデルとなった人物は、モンティ・ロバーツという実在のアメリカ人である。
モンタナの風……』が脚本段階で単なるラヴロマンスに堕してゆくことや、それ以上に馬たちの尊厳がないがしろにされることに失望した彼は、映画への協力を途中で完全に下りてしまったそうだけれど――そんな一徹な面を持つ彼自身が著した『馬と話す男』という自伝は、人生への示唆とユーモアに満ちていて、読み物としても一級品だった。

――楽園のしっぽ|村山由佳 (文春文庫)

馬と話す男―サラブレッドの心をつかむ世界的調教師モンテイ・ロバーツの半生|モンティ・ロバーツ

肩からかけているバッグのサイドポケットには、文庫本が1冊はさまっていた。
そっと伸び上がって背表紙をのぞきこむと、それはハインラインの『夏への扉』だった。
二、三年前に読んだそれが、とても気持ちのいい小説だったことを思い出して、
僕の口もとは思わずゆるんだ。
 中盤、アレックスが芝生に寝転がりながら、キャロル・キングの『SO FAR AWAY』を歌う場面が出てきます。彼女はこの曲を、人生において特別に好きな曲のうちのひとつに挙げるわけですが、じつは私自身にとってもこの曲は、というより、この曲の収められた『TAPESTRY』(邦題は『つづれおり』)というアルバムそのものが、青春の一ページと呼べるものでした。名曲揃いの一枚なので、機会があったら聴いてみて下さい。心がちょっとつまずいてしまった時や、親友にも恋人にもうまく話せないような出来事があって寂しくてたまらない時、寄り添ってくる一曲がきっとあると思います。