余計な荷物を捨ててしまっても、人生には残るものがある。それは気持ちよく晴れた空や、吹き寄せる風や、大切な人のひと言といった、ごくあたりまえのかんたんなことばかりだ。そうした「かんたん」を頼りに生きていけば、幸せは誰にでも手の届くところにあるはずだ。
明けがた、妻の眠るベッドの横にそっと滑りこみながら喜一は考えた。四十歳になって、ようやく切なさとともにわかった。世紀の大恋愛より、爛れるような欲望よりも、退屈で平凡な日常は強い。現在進行形の恋などより過去の恋愛の幽霊のほうが、人の生きかたを重く深く縛るのだ。
だが、得するカードばかり集めて、それが充実した人生になるのだろうか。生きるうえではマイナスになる条件を、自分の意志で背負うところに、逆説的にほんとうの人生の充実はあるのではないか。
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| — | 『空は、今日も、青いか?』(石田衣良/集英社文庫) |
この気まぐれで冷酷な社会のなかで、自分がどんな場所に身をおくのか。それをあなたには真剣に考えてもらいたい。なにも若く豊かで有名である必要はない。あのビル街の隠れ場のように、こんな時代でもきっと雲の切れ間があって、日ざしの落ちる場所がどこかにあるはずだ。それは確かに狭い隙間のような土地かもしれない。だがそれでも、あなたのためのあたたかな場所がきっとある。そういう場所を見つけて、じっくりと暮らしていく。それができれば、時代の風がどれほど冷え込んでも、きっとだいじょうぶだ。ほっと息をついて十分に自分の力を発揮できる。仕事を続けながら、自分なりの日のあたる場所を探してみよう。何年間も心のどこかで気にかけておけば、きっとそれが見つかる日がくるはずだ。
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| — | 『空は、今日も、青いか?』(石田衣良/集英社文庫) |
今、ぼくの机のうえには一冊の本がある。タイトルは『声をなくして』
(晶文社)という。著者は気鋭のインタビュワーで、ライターでもある永沢光雄。今年読んだ本のなかで、一番胸にしみた本なので、あなたが生きることに迷っているなら、ぜひこの本を手にしてもらいたい。
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| — | 『空は、今日も、青いか?』(石田衣良) |